就業規則の「死亡退職金」の落とし穴(遺族≒相続人)

1 死亡退職金の受取人は誰ですか?

 実は、就業規則の規定には数々の落とし穴があります。今回は一例として、就業規則の死亡退職金の規定について具体的な事例を挙げて注意点をご紹介致します。
 例えば、御社の50代の働き盛りの従業員が在職中に急死した場合に、御社に対して、従業員の子供から電話があったとします。
 電話の内容は、「故人は10年ほど前に離婚しておりまして、私とは離れて生活しておりました。故人の両親もすでに他界して幾年か経ち、戸籍上相続人は私だけです。長らく御社に正社員として勤務していた故人の死亡退職金を唯一の相続人として全額受け取りたい」。
 前提として、就業規則に、従業員について退職金の定めがあれば、在職中の死亡の場合にも自主退職時の退職金と同一と扱う旨の規定がされている場合が多く、仮に、死亡時の退職金について明確な規定がない場合であっても、自主退職時に退職金を支払う規定があれば退職金の支払い請求が認められる場合が多いと考えられます。
 次に、就業規則の定めに従って具体的な受取人が誰になるか考えてみます。

2 就業規則の定める「遺族」=「相続人」ではない。

 厚生労働省が公開している「モデル就業規則」が中小企業の就業規則のひな型として広く利用されています。
 この「モデル就業規則」では「死亡による退職の場合はその遺族」を受取人として定め、多くの就業規則もそれに倣い「遺族」と規定しているようです。
 実は、就業規則の規定の「遺族」を「相続人」と同じ意味で理解することは危険です。
 「モデル就業規則」についての裁判例ではありませんが、私立大学の退職金規程の「遺族にこれを支給する。」について、受給権者は、相続人ではなく、職員の死亡の当時、主としてその収入により生計を維持していた配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)が第一順位の受給権者となると解すべきであるとの裁判所の判断もあります(最判昭和60年1月31日)。
 私立大学には共済組合法の適用があるなど、株式会社とは異なりますが、事例においても、在職中に死亡した従業員に「事実上婚姻関係と同様の事情がある者」がいた場合には、相続人である子供は死亡退職金の受取人ではないとの解釈の余地が生じてしまいます。

3 就業規則の各規定の見直しの勧め

 このように、就業規則の文言から死亡退職金の受取人を確定できないと、会社が債権者を判断することが出来ないとして供託する必要も生じ、仮に、誤った権利者に死亡退職金を支払った場合には、後に、真実は私が受取人であると主張する者から支払いを請求される可能性もあります。
 就業規則の変更などの機会には、一度、労務の専門家に就業規則の定めについて確認して頂くことをお勧めします。
 
 
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